2018年12月30日日曜日

あなたとのキスまでの距離

彼の作り笑いを、私は笑えるだろうか。


BREATHE IN


監督:ドレイク・ドレマス
出演:ガイ・ピアーズ
   フェリシティ・ジョーンズ
   エイミー・ライアン

あらすじ


ニューヨーク郊外の緑豊かなウエスチェスター。
音楽教師のキースは、田舎暮らしを謳歌する妻メーガンと、水泳好きの普通の高校生ローレンと3人、平凡ながら、幸せな毎日を送っていた。
しかしながら、キースは、プロのミュージシャンになるという若い頃からの夢を捨てきれないばかりか、はっきりと口には出さないが、満たされない思いを、妻や娘のせいにしていた。
また同様に、メーガンやローレンも、互いの心を深く知ろうとはしなかった。
そんな時、3人の元へ、ロンドンからの留学生ソフィーがやってくる。
明るく気遣いのできる18歳の女の子だが、時折見せる憂鬱感。
ピアニストでもあるソフィーとキースは、互いの孤独を埋め合わせるように、少しずつ距離を縮めていく。

左:フェリシティ・ジョーンズ 右:ガイ・ピアーズ
 

感じたこと


旧い習慣の残る場所、変化を嫌う人々の前に、突然、異邦人が現れ、その影響によって、人々が少しずつ変わり始めるという、昔から西部劇なんかでよくあるストーリー。

明るく前向きな青春映画であれば、「フットルース」などが思い浮かぶし、異邦人が神経衰弱ならば、「セックスと嘘とビデオテープ」なんかも同じ展開である。

これらに共通するのは、価値観の崩壊であろう。

違いは、主人公が、影響を与えるのか、受けるのか。

問題は、異邦人が、去るのか、留まるのか。

そして、それを、自らの意志で選択するのか、選択せざるを得ないのか。

この映画の場合は
、結論から言えば、曖昧なのだ。

物語の最初と最後は、毎年恒例になっている家族3人で
の記念撮影。

それぞれの表情に劇的な変化はない。

娘の顔に残る傷が、ほんの少し、心に沁みるだけだ。

ただ、同じ笑顔で
あっても、もう同じには見えない。

ソフィーが現れたことによって、今まで気付かないふりをしていたそれぞれの価値観、心の距離を、確かめてしまったのだから。

これって、物凄く残酷なことだと思う。

それぞれの価値観は崩壊していないのに、家族は崩壊しかけている。

3人で何かを乗り越えたわけじゃない。

そこで、ソフィーの言葉を思い出す。「自分で選べないなら、生きていたくない。」

ちなみに、音楽の才能って、どんなものなんだろう。

私に聞こえている音と違うのだろうか。

音楽の才能がある者同士は、心が通じ合えるのだとすれば、キースとソフィーのあまりに短絡的な逃避行も、何となく理解できるかもしれない。

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2018年12月22日土曜日

悲しみが乾くまで

人は誰かに思い出を話すことで、悲しみから解放されるのだろうか。


THINGS WE LOST IN THE FIRE


監督:スサンネ・ビア
出演:ハル・ベリー
   ベニチオ・デル・トロ
   デヴィッド・ドゥカヴニー

あらすじ


子供たちのアイスクリームを買いに出かけたブライアンは、正義感が強いことが災いして、夫婦喧嘩の末の殺人事件に巻き込まれ、射殺されてしまう
愛する夫を突然亡くし、うろたえる妻・オードリーは、葬式の当日、夫の死を知らせなければならない人、ブライアンの幼い頃からの親友・ジェリーの存在を思い出す。
ジェリーは、元弁護士だが、今は、ヘロイン中毒となり、すさんだ生活を送っていた。
オードリーは、ジェリーを毛嫌いしていたが、ブライアンだけは、彼を見捨てずに、陰ながら支えてきたのだ。
夫の死をきっかけに、ジェリーと再会したオードリーは、彼がまともな暮らしができるよう、一緒に暮らすことを提案する

左:ベニチオ・デル・トロ 右:ハル・ベリー

感じたこと


この映画の各シーンは、時系列に並べられているわけではない。

登場人物たちの乱れた心理状態と重なって、不安定で、落ち着きがなく、整合が取れていない。

妻も子も友人も、それぞれが互いを利用して、ブライアンの突然の死を乗り越えようともがいている

誰もが必死に普通の生活をしている

オードリーは、ジェリーに言う。「あなたが代わりに死ねばよかったのに…」

恐ろしく、冷たい、残酷な本音

死の捉え方は、宗教観や死生観によって大きく異なるが、自分自身が死と向かい合った時、または、愛する人の死に直面した時、宗教が、心の大きな支えとなることは、疑うことのできない事実だろう。

一方、「死」と共に、大きなテーマとなっているのが「薬物依存」。

ジェリーについては、元弁護士であったこと以外、ヘロインを使い始めたきっかけなど、多くは語られない。

また、過去の出来事も断片的で、わずかな情報から想像するしかないのだが、多分、出来心で、大した理由などないのだろう

おそらく、理由なんてどうでもいいのだ。

薬は、容赦なく、体を蝕んでいく。

依存者の多くは、意志の弱さを指摘されるが、これはもう精神論ではないということが、ベニチオ・デル・トロの迫真の演技から伝わってくる。

薬物中毒による死といって思い出すのは、ニルヴァーナのカート・コバーン。

ニルヴァーナは、仏教用語で『涅槃』。

やっぱり、深すぎて、手に負えない話になってきますね。


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2018年12月14日金曜日

ワン・ナイト・スタンド

私たちに自由な意思があるなら、偶然を信じないわけにはいかないだろう。


One Night Stand


監督:マイク・フィギス
出演:ウェズリー・スナイプス
   ナスターシャ・キンスキー
   カイル・マクラクラン
   ミン・ナ
   ロバート・ダウニー・Jr

あらすじ


CMディレクターとして成功したマックスは、出張でニューヨークを訪れた際に、5年間、絶交状態となっていた親友のチャーリーを訪ねる
チャーリーは、HIVに感染しながらも、自らの夢を追い続けていた
翌日、国連の祝賀祭に巻き込まれて、飛行機に乗り遅れたマックスは、ホテルのロビーで知り合ったカレンと意気投合し、一夜を共にする。
一年後、チャーリーの病状が悪化し、病院に見舞いに行くと、そこへカレンが現れる

左:カイル・マクラクラン 中央左:ナスターシャ・キンスキー 中央右:ウェズリー・スナイプス 右:ミン・ナ

感じたこと


おそらく、賛否両論あるだろう。

冒頭、主人公がニューヨークの街を軽快に歩きながら、カメラ目線で状況説明。

デート中の2人が、暴漢に襲われ、それを撃退する際のアクションの切れなど、若干、過剰とも思える演出に、ジャンル分けに慣れた鑑賞者は、戸惑ってしまう

不倫をテーマにした大人のラブストーリーでありながら、友人である同性愛者のHIV感染を軸に物語は展開していく

「自由に生きる」「自分を信じる」ことの象徴が、HIVに感染した同性愛者で、「後悔しない人生」のために、不倫が肯定されるのだとしたら、それに違和感を覚える人は少なくないだろう

しかし、この映画は、偶然の一致・運命のいたずら・そして、その皮肉な結末を楽しむべきなのだと思う

ニューヨークで、偶然、出会い、愛し合った2人が、運命のいたずらで再会し、皮肉な結末を迎える。

映画の最後は、レストランでのぎこちない4人の会話。

タクシーに乗り込む2人と、それを見送る2人。

交錯する人間関係

でも、とりあえず、今のところ、誰も不幸ではないのだ。


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2018年12月8日土曜日

カンパニー・メン

優先順位をつけたなら、自分の価値観が判るだろうか。


The Company Men


監督:ジョン・ウェルズ
出演:ベン・アフレック
   クリス・クーパー
   トミー・リー・ジョーンズ
   ケビン・コスナー
   ローズマリー・デウィット

あらすじ


大企業の造船部門に12年勤続するボビーは、ある日、突然、リストラを宣告される
呆然となって帰宅し、妻にだけ報告するボビー
プライドが邪魔をして、職探しも上手くいかず、大工の義兄からの仕事の誘いも断ってしまう。
一方、さらなるリストラにより、溶接工から重役にまで出世したフィルや、創業当時から勤務し、最高経営責任者の右腕となったジーンまでも失業してしまう。
会社に依存していた3人の男たちが、それぞれの形で、仕事や家族を見つめ直すのだが…

左:ベン・アフレック 右:ローズマリー・デウィット

感じたこと


大企業に勤務し、高額な報酬を得ていたエリートビジネスマンたちが、リストラにあい、路頭に迷う。

人は、自分にも起こるかもしれない不幸に対しては、手を差し伸べたくなる。

だから、災害や交通事故などに巻き込まれた人には、特に同情してしまうものだ

しかし、この映画の登場人物たちは、微妙だ。

私も「カンパニー・メン」だから、リストラの恐怖はあるが、プール付きの豪邸も、高級スポーツカーも、一生、手に入れることはないだろう

これには、『妬み』が含まれている

ある基準において、自分より優れている人に対しては、やはり、劣等感を感じてしまうのだ。

でも、この基準って、いったい何だろう。

価値は、目的の実現のために役立つ性質だが、目的がなければ、何に価値があるかさえ、わからないだろう。

欲しいものはたくさんあるけれど、本当に価値のあるものは限られている

この映画の主人公・ボビーは、初めて大きな挫折を味わい、「カンパニー・メン」としての、これまでの人生を見つめ直し、家族とともに、本当に大切なものは何かを確認する。

物語の最後に、ボビーは「カンパニー・メン」として、もう一度、挑戦する機会を得る。

水を得た魚のように、はつらつと指揮を執る彼の姿は、まさに「仕事ができそう」な男である。


経営者と一般社員との年収差は、700倍。

挫折を知らない人間は、本当の価値を知らない。

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あしたは最高のはじまり

この先に「最高」はあるのだろうか。 Demain Tout Commence ...