2018年10月19日金曜日

アナーキー

シェイクスピアを学べば、この世界を理解できるだろうか


Cymbeline


監督:マイケル・アルメレイダ
出演:イーサン・ホーク
   エド・ハリス
   ミラ・ジョヴォヴィッチ
   ダコタ・ジョンソン

あらすじ


麻薬王シンベリンは、娘イモジェンと後妻の連れ子クロートンとの結婚を望んでいたが、イモジェンは、部下のポステュマスと結婚してしまう。
そのため、シンベリンは、イモジェンを軟禁し、ポステュマスを追放する。
すると友人の家に匿われたポステュマスに、ヤーキモーが賭けを提案する。イモジェンを誘惑し、貞操を破ってみせると。
一方、シンベリンは、後妻の進言により、警察との抗争を激化させてしまう。

中央:エド・ハリス 右:ミラ・ジョヴォヴィッチ

感じたこと


原作は、シェイクスピア(1564-1616)の戯曲「シンベリン」。

学校の授業で、シェイクスピアを学ぶ英語圏の人たちには、身近な作品なのだろうか。

設定は、現代。演技もリアル。しかしながら、ストーリーや登場人物のキャラクターは、シェイクスピアの世界を忠実に再現しているのだろう。

冒頭から、年老いたエド・ハリスが、ライダースジャケットにショットガンを持っているという、かなり歪曲された世界観に驚かされる。

不思議と居心地のいい違和感。

描かれるのは、家族の離散と再会を軸に、愛情・不安・嫉妬・憎悪といった人間の感情と、その感情から生じる嘘・裏切り・殺人・告白、そして和解。

あらゆる悲劇が詰め込まれたストーリーにもかかわらず、そこに悲壮感は全くない。どちらかと言えば、喜劇だ。

人間の行動なんて、真剣であればあるほど、愉快で滑稽なんだと感じてしまう、まるで舞台のような映画なのだ。

※シェイクスピアの後期の作品群を「後期ロマンス劇」と呼ぶことから、ラベルは「ロマンス」に分類した。


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2018年10月17日水曜日

キャロル

もう一人の自分が同性であったとしたら、それを受け入れることはできるだろうか。


Carol


監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット
   ルーニー・マーラ
   サラ・ポールソン
   カイル・チャンドラー

あらすじ


高級デパートで働くテレーズは、写真好きで、ボーイフレンドから求婚されている、とても平凡な女性である。
ある日、売り場に、娘のクリスマスプレゼントを買いにキャロルが現れる。
店員と客との短い会話
その後、キャロルが忘れた手袋を、テレーズが送り届けたことから、最初はランチ。
そして、二人の仲は、急速に深まっていく。

左:ルーニー・マーラ 右:ケイト・ブランシェット

感じたこと

同性愛者への理解が、今よりも更に乏しい1950年代

夫とは別居しているが、一人娘と経済的に恵まれた生活を送っているキャロル。

そして、女性であり、移民である境遇に、若くして諦めかけているテレーズ。

二人が出会うクリスマスシーズンのデパート。

人混みの中で、互いを初めて確認した時、惹かれあう一瞬が美しい。

その一瞬で、この物語における愛の形に対する偏見は、消え去ってしまう。

二人の抱える問題は、同性愛というショッキングなテーマを取り除いてしまえば、社会的に認めてもらえない自己と、どう向き合うのかという誰もが持っているものだ。

キャロルの誘いに、常に受け身であったテレーズが、戸惑いながらも自らの意志で、最後に何を選択するのか?

もう一人の自分が同性であってもいいのだ。


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2018年10月11日木曜日

ミッドナイト・イン・パリ

過去が本当に今より美しいなら、いつの時代を旅するだろうか。


Midnight in Paris


監督:ウディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン
   レイチェル・マクアダムス
   マリオン・コティヤール
   キャシー・ベイツ

あらすじ


婚約者とパリを旅行中のギルは、空気の読めない知人カップルと一緒にいるのに疲れて、一人でホテルに帰る途中、道に迷ってしまう。
すると、真夜中の鐘の音とともに、旧型のプジョーが現れ、ギルを黄金の1920年代に連れて行ってしまう。
その日から、毎晩、真夜中のパリで、憧れの芸術家たちと出会い、夢のような時間を過ごしたギル。
現在と過去。婚約者と新しい恋。果たして、彼は、どんな選択をするのか。

左:マリオン・コティヤール 右:オーウェン・ウィルソン

感じたこと


主人公ギルは、パリを旅行するアメリカ人であり、未来から過去の黄金時代を覗き見るタイムトラベラーだ。

また、現在の主な登場人物は、すべてアメリカ人で、それも婚約者とその両親、婚約者の知人カップルだけである。

真夜中のパリで、黄金時代(ギルがそう考えている。)の芸術家、ヘミングウェイやフィッツジェラルドたちと交流し、美しきアドリアナと恋に落ちても、朝方には、現在に戻ってしまう。

パリの魅力に引き込まれながらも、どこか他人事で、誰にも責任を持たないギルが、ガートルード・スタインの助言で、婚約者の浮気を問いただし、最後は、パリに残って、継続して生活することを選択する。

それは、アメリカ人のパリではなく、本当のパリを知るということ。現実や自己と向き合うという決意であろう。

ただ、そこは、ウディ・アレン。

ラストは、素敵なフランス人女性との恋を予感させる、あくまでも軽い、ロマンチックなコメディ。


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2018年10月9日火曜日

Re:LIFE ~リライフ~


もう一度、やり直せるとしても、彼はハリウッドでの成功を求めるのだろうか。


The Rewrite


監督:マーク・ローレンス
出演:ヒュー・グラント
   マリサ・トメイ
   J・K・シモンズ



あらすじ


アカデミー賞の受賞経験もあるキースだが、今は脚本家としての仕事はない。
そのため、住み込みで働ける田舎の公立大学で、特別講師をすることになる。
当初は、教え子と関係を持ってしまったり、授業を1カ月も休講にしたり、女性教授と言い争いをしたりと、トラブル続きであったが、学科長や同僚、学生たちとの交流や仕事をしながら大学に通うシングルマザーとの出会いを通じて、自分自身の生き方を考え直していく。


ヒュー・グラント

感じたこと


若くしてハリウッドで成功を収めたが、今は落ちぶれた脚本家キース。

成功者としての暮らしも、女子学生に言い寄られた経験もない私には、特に感情移入はできないが、時代に取り残されたかつての二枚目は、どこか情けなくて、周囲からも何故か愛される男。

近年のヒュー・グラントが、最も得意とするキャラクターではないだろうか。

キースが、授業で学生たちに語る脚本の極意。

「物語を作る理由を持つことは、二幕目で行き詰った時の大きな助けになる。」

人生のシナリオを、本当に自分で描けるのかは、また別の話だが、人生で挫折した時に、人が立ち直るための力は、「書きたい理由」なのかもしれない。

ちなみに、適度な中年女性を演じたマリサ・トメイがいい。

毎年、若く美しい女優が注目を集める映画界で、今も輝き続ける稀な女優。

日本でいうところの小泉今日子、かわいくて、セクシーで、ちゃんとおばさんなのだ。


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2018年10月8日月曜日

ルーム

人は、何も信じることなく、不条理を受け入れて、生きていくことができるだろうか。


Room


監督:レニー・エイブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン
   ジェイコブ・トレンブレイ
   ジョーン・アレン

あらすじ


施錠された狭い「ルーム」に7年間監禁されたジョイは、犯人との間に生まれた5歳の息子ジャックを脱出させる。
無事に保護され、犯人も逮捕されるが、長い間、世間から隔離されていた2人には、外の世界に適応するための、さらに大きな困難が待っていた。

ジェイコブ・トレンブレイ

感じたこと


7年間、「ルーム」に監禁されていた女性ジョイと息子ジャックとの再生の物語。

事件の異常性にもかかわらず、まるで、おとぎ話のように物語は進んでいく。

家族の崩壊、実父との確執、マスコミの執拗な取材、被害女性の自殺未遂といった出来事すら、ジャックの中性的な容姿、素直過ぎる心に、温かく包まれていく。

ジャックは、まさに、天窓から「ルーム」に舞い降りた天使。

おそらく、2人にハッピーエンドはこない。ジャックは救いであると同時に、逃れることのできない過去の一部であり、過去そのものでもあるのだから。

そんな困難な未来が想像できるからこそ、せめて映画の最後は、例え予定調和であったとしても、ジョイとジャックの穏やかなひと時を望んでしまう。



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あしたは最高のはじまり

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