2019年2月23日土曜日

ウィンターズ・ボーン

17歳の頃の私は、一体、何をしていたのだろう。


Winter's Bone


監督:デブラ・グラニック
出演:ジェニファー・ローレンス
   ジョン・ホークス
   シェリル・リー
   ギャレット・ディラハント

あらすじ


ミズーリ州南部のオザーク。
精神を病んだ母親と幼い弟妹の4人で暮らすリーは、17歳。
高校にも行かずに、家族を支えている。
ある日、麻薬の密造で逮捕されていた父親が保釈され、その後、失踪していることを保安官に知らされる。
父親は、家と土地を保釈金の担保にしていたため、来週の裁判に現れないと、住む家を失ってしまうのだ。
リーは、家族を守るために父親捜しを始めるが、村の人は、誰も協力しないどころか、何かを隠している。

左:アイザイア・ストーン 中央:ジェニファー・ローレンス 右:アシュリー・トンプソン

感じたこと

ミズーリ州の山間部に暮らすリー・ドリーは、気が強く、逞しい少女だが、閉塞された村社会を出て、生きていく力はない

この物語は、白人貧困層であるヒルビリーの社会を背景に描かれている。

ヒルビリーとは、最近ではカントリーミュージックの一種と訳されるが、元々は、アパラチア山脈周辺に住むレッドネック(首筋が赤く日焼けしている白人)のことだ。

リーが生まれ育った狭く閉ざされた社会は、憲法でも、法律でもなく、ヒルビリーの”掟”によって、守られている。また、同時に”掟”によって、生活が縛られている。

そのため彼女は、警察を頼ることもなく、一週間以内に、父の死を証明しなければならないのだ。

17歳の少女にとっては、なんて過酷な試練だろう。

リーが、この村社会を抜け出す方法。それは、米軍への入隊だけである。

この映画に登場する唯一まともな大人は、米軍の面接官。

「覚悟を決めて、家に残るべきだ。」と言うのだが、今日、食べるものに困っている少女には、何の役にも立たない助言だ。

人間は、自らの意志によって、社会に参加するのが理想と言えるだろう。

ただ、個人に開かれた社会は、極めて限定されている

私たちは、それぞれ違ったスタートラインに立たされるのだ。

ディズニーチャンネルばかり見ている日本の子供たちは、絶対に見てほしい

ニューヨークやロサンゼルスだけが、アメリカではないのだ


にほんブログ村 映画ブログ おすすめ映画へ
にほんブログ村

2019年2月18日月曜日

スノーデン

正義のために監視をするべきなのか。それならば、監視することは正義なのだろうか。


Snowden


監督:オリバー・ストーン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット
   シャイリーン・ウッドリー
   メリッサ・レオ

あらすじ


2013年6月。
ドキュメンタリー作家のローラとガーディアン紙の記者グレンは、香港のホテルで、CIA及びNSAの元局員であるエドワード・スノーデンと落ち合う。
「米国家安全保障局(NSA)が米電話会社の通信記録を毎日数百万件収集」との暴露を秘密裏に行うためだ。
9年前、愛国心の強いスノーデンは、米軍に志願入隊するが、両足骨折の重傷を負って除隊。
その後、CIAやNSAなどのコンピューターセキュリティに関連する任務に従事し、スイス、日本、ハワイなどで勤務する。
その中で取り扱う国家機密。アメリカの監視対象は、テロリストだけでなく、同盟国や民間企業、果ては個人に至るという事実。
スノーデン自身も監視されるストレスで次第に追い込まれていき、これまでのキャリアと多額の報酬、恋人との幸せな暮らしを捨てて、内部告発を決意する。

中央:ジョセフ・ゴードン=レヴィット

感じたこと

スノーデン事件は、アメリカのみならず、国際社会において、極めて重要な内部告発である割に、日本では、大きな話題になっていない

一般的な日本人は、中東における戦争や世界で多発するテロを、他人事だと考えているし、アメリカとの同盟を解消するなんて、夢にも思っていない。

そのため、実質、害がないのだ。

ITという言葉を初めて聞いたのは、25年ほど前。

何のことかも解らないまま、使い始めたWindows95。

今では、当たり前になったインターネットや電子メールだが、その実体は何かと問われれば、答えられる人はいないだろう。

それは、自称専門家であっても、スノーデンであっても同じだ。

こういった話は、いわゆる『陰謀論』として認知される。

要するに、この告発を証明することは、困難なのだ。

世界はあらゆる国や民族、組織で複雑に構成されている。

アメリカの政治において、軍需産業が大きな影響力を持っているとしても、世界中を支配していることにはならない

実際、スノーデンは、ロシアに保護されている。

アメリカの不正な情報活動を暴露して、人権やプライバシーに関して、アメリカと比較して問題があるであろう国に守られているというのも皮肉だ

この映画においては、あくまで、スノーデンに正当性があるとして描かれているが、真実は判らない

ちなみに、スノーデンは、同盟国である日本についても、「横田基地駐在時に、日本の電力システムを停止することができるマルウェアを仕込んだ。」と発言している。

ここで、ヘーゲルの言葉。
「ひとつの人間集団は、その所有物の全体を共同して防衛するように結合されているときにのみ、国家と称することができる。」

日本は大丈夫だろうか。


  にほんブログ村 映画ブログ おすすめ映画へ
にほんブログ村

2019年2月9日土曜日

ノクターナル・アニマルズ

誰の中にも、獣がいるのだろうか。


Nocturnal Animals


監督:トム・フォード
出演:エイミー・アダムス
   ジェイク・ギレンホール
   マイケル・シャノン

あらすじ


アートギャラリーを営むスーザンは、仕事の成功とは裏腹に、夫との関係も冷え切っており、孤独で物足りない生活を送っていた。
そんなある日、20年前に離婚したエドワードから、発表前の小説が送られてくる。
経済力も野心もない気弱な夫であったエドワードの作品とは思えないほど、強い生命力と才能を感じたスーザンは、過去の記憶と相まって、次第にエドワードとの再会を望むようになる。

中央:エイミー・アダムス

感じたこと

冒頭の映像は、芸術というには、あまりに醜く太った女性の裸体

最後まで見ても、何を表現しているのか、またストーリーとの関連は何なのか、はっきりとしたことは判らない。(※ルシアン・フロイドの絵画が原案だと思われる。)

レアリスム系の作品と捉えれば、スーザンの現実主義との連接が考えられるし、アートギャラリーに集う着飾った人々との対比としての『捕らわれた獣』と思えなくもない。

ただ、一番しっくりくるのは、スーザンの心理の中の母性の象徴ではないだろうか。(※スーザンは母親を軽蔑している。)

とにかく、冒頭から度肝を抜かれることだけは、確かだ。

この映画は、二つの異なるストーリーが重なり合って構成されている。

1つは、スーザンの現実世界。もうひとつは、エドワードの小説。

また、スーザンの現実社会は、現在と過去の回想が交錯している。

鑑賞者の立場からすれば、どちらもリアルで、しいて言えば、小説の中の主人公トニーやトニーを助ける警部補のボビーに、感情移入してしまう。

この映画で、最も期待するのは、トニーの妻子を殺した『夜の獣たち』への復讐や、末期癌に苦しむボビーの世の中への復讐であり、決して、スーザンとエドワードの復縁ではない。

解釈は、大きく2通り考えられる。単純にエドワードの復讐。もう一つは、不眠症である『夜の獣』スーザンの妄想である

エドワードの小説は、スーザンの現実社会とは、一見、全く異なる世界を描いているにも関わらず、スーザンの心理の中では、全て関連付けられていく。

しかし、本来、エドワードとトニーは、同一人物ではないはずだ

スーザンに捧ぐといっても、そもそも小説は、一般に公開されるものだし、エドワードも手紙で、「君がいた頃とは違う作品に仕上がっている。」と書いている。

自分を主人公にしていない可能性が高いのだ。

この映画は、現実に存在するエドワードと、架空の世界を生きるトニーを同一人物のように描くことで、とても複雑で難解な作品になっている。

ちなみに、トニーが、もしも死んでいなかったならば、または、エドワードが自殺しているならば、エドワードの自伝ということもありえるだろう。


  にほんブログ村 映画ブログ おすすめ映画へ
にほんブログ村

あしたは最高のはじまり

この先に「最高」はあるのだろうか。 Demain Tout Commence ...