2019年5月29日水曜日

ピアノ・レッスン

言葉とは何だろうか。声を失うことに、どういう意味があるのだろうか。

The Piano


監督:ジェーン・カンピオン
出演:ホリー・ハンター
   ハーヴェイ・カイテル
   サム・ニール
   アンナ・パキン

あらすじ


6歳の頃に、言葉を失ったエイダは、父親が勝手に決めた縁談により、幼い娘フローラを連れて、ニュージーランドに移り住むことになる。
上陸した日は、天候が悪くて迎えが来ず、2人は海岸で一夜を明かす
翌朝、ようやく結婚相手のスチュアートが迎えに来るのだが、ピアノは重過ぎると、海岸に置き去りにしてしまう
ある日、エイダは、スチュアートの仕事仲間で、先住民と暮らすべインズに、ピアノのある海岸までの道案内を頼む。
エイダとピアノに心奪われたべインズは、スチュアートからピアノを買い取り、エイダに黒鍵の数だけレッスンをするよう依頼する。

左下:アンナ・パキン 中央:ホリー・ハンター

感じたこと


20数年前に劇場で見た『ピアノ・レッスン』

その映像と音楽の衝撃は、今も変わらない。

海辺に残された1台のピアノ。

外部からの侵入を拒む激しい波と切り立った岸壁。
そして、漂う湿った空気感。 

本来、そこに音楽は不要だ

映像の美しさだけで、完結しているはずなのに、響き渡るピアノの音色

印象は異なるが、八木重吉が詠った『素朴な琴』と類似している

ただ、それは、美しい自然とピアノとの関係性であり、主人公エイダの心境とは異なる。

彼女にとって、そこは、「この世の果て」でしかない

当時の女性にとっては、辺境の地ニュージーランドを運命として受け入れるしかないのだが、エイダは、ただ諦めて流されるのではなく、強い意志を持って、つまり抵抗しつつ、受け入れているのだ。

6歳の頃から、自らの意志で話すことをやめ、ピアノによって、自己表現することを選んだ。

喜怒哀楽がないわけではない。あくまで、心の奥底にあるものを、ピアノで奏でるのだ。

それは、とても幸せな事だと思う。普通、人は心の奥底に何があるか分からないし、当然、それを表現することはできない。

20数年前の私は、エイダに強い憧れを抱くとともに、エイダに拒絶される夫スチュアートの嫉妬と復讐に共鳴した。

ただ、今は、なぜか、べインズにシンパシーを感じてしまう。

辺境の地で先住民と暮らす、文盲の変態中年だと思っていたべインズ。

そんな男と自分に共通するもの。若い頃には気付かなかった「身の程」というものかもしれない

べインズが幸せを掴むことが、素直に嬉しいのだ。


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2019年5月19日日曜日

ブロークバック・マウンテン

風景が美し過ぎると、後悔も増幅されてしまうのだろうか。

Brokeback Mountain


監督:アン・リー
出演:ヒース・レジャー
   ジェイク・ギレンホール
   アン・ハサウェイ
   ミシェル・ウィリアムズ

あらすじ


1963年、ワイオミング。
夏の間だけ、牧場の羊飼いとして雇われた2人のカウボーイ
無口なイニスと陽気なジャック
お互いの能力を認め合いながら、次第に強い絆で結ばれていく。
それは、男同士の友情を越えた深い愛情であった。
夏が終わり、2人は、それぞれの生活に戻っていく。
イニスは、予定通りアルマと結婚し、ジャックは、テキサスのロデオ大会で知り合った、社長令嬢のラリーンと結婚する。
そして、4年の歳月が過ぎ、2人は再会を果たすのだが…

左:ヒース・レジャー 右:ジェイク・ギレンホール


感じたこと


最近は、LGBTという言葉を、よく聞くようになった

レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー。

映画の世界では、これまで、場の雰囲気を和ませる(お笑い?)要素の1つとして、脇役となることが多かったLGBTも、最近では、主題として扱われることが多い。

某広告代理店の調査によると、日本人の約8%。つまり、計算上13人に1人がLGBTだと考えられる。

詳しいことは判っていないが、母胎内で浴びるホルモンに原因があるらしい。 

ある条件が整った時に、必ずLGBTが生まれるのであれば、人間の進化についても解明できるかもしれないし、宗教的に考えれば、そこに、何らかのメッセージが隠されているはずだ

この映画は、時代的に今よりも受け入れられない。まして、カウボーイという閉鎖的な男社会では、決して許されない同性愛をテーマにしている。

実際、見つかれば、拷問の末に殺害されることもあったようだ

多くは語られないのだが、ジャックの死は、事故ではなく、事件であったのだろう。

社会生活を営む上で、共通する道徳観

ブロークバック・マウンテンを下りて、平然とジャックを見送った後、倉庫の隅で嗚咽するイニスの姿に、全てが凝縮されている気がする。

対象は異なるが、誰もが経験したことのある満たされない想いと、決して戻らないブロークバック・マウンテンの夏の日の想い出。

その後に残った『後悔』を描いた作品として考えれば、不思議と共感しかないのだ。


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